蔦古書店




それは突然現れた。

アスファルトできれいに舗装された道、
丁寧に、白いガードレールで
歩道が仕切られている道、

そんな整えられすぎた道の曲がり角を
曲がったところにあったのだ。



深緑色の蔦で覆われた建物。
ドアはかろうじて見える。

窓の隙間も少し空いている。
でも本が重なり、
中が見えるどころではない。



入ろうか、このまま帰ろうか。



悩んだ末に固そうな扉を開ける。

ギギーと、音がした。

少しカビ臭いような、
でも、古本屋の匂いがする。



床から積み上がった本たちのタワー

本棚には、
隙間という隙間に詰め込まれた本


『遊歩道大全集』
『アルペン』
『冒険いう名もなき道』


どうやら、山関係の本が多い様子。



それで、壁にも山の写真がたくさん。
これは、この店の人が
撮ってきたのだろうか。



奥に、あり得ない角度に腰を曲げて
新聞を読むおじいさんの姿があった。



こちらが入ってきたことにすら
気づかないようである。



湿気っぽい暗いこの店内で
照らす灯りも暗い。
ガラス製のランプシェードには
埃がかぶっている。




一冊、気になった本が目につく。


『山登りと本』


まさに、この本屋のための本みたいだ。


意を決して、おじいさんに近づく。



「はい500円」



こちらを見ることなく
言い慣れているであろう声だけが届いた。



黙って、500円玉を差し出す。



「はい、ありがとさん」


誰に言っているのか
わからないあいさつだ。



お店を出ると、
すっかり日は落ちかけている。


なんだか、
気分は軽かった。



来た道を少し進んで振り返ると
窓からうっすら漏れる光以外は
何も見えなくなっている。



帰り道、
白いガードレールだけが
妙な明るさを放っていた。


いしかわあやか